1. 信頼できるAI:監視と調整のしくみを前提にする
AIやスコアリングモデルに,いきなり本番の判断を丸投げしない.
その前提として,その上に「監視と調整のしくみ」を必ず載せる,という設計を取ります.
- 出力の偏りや急な変化を継続的にチェックする.
- どのデータ・ルール・前提から,その結論に至ったかを遡って確認できるようにする.
- 担当者が「採用する/修正する/却下する」を判断しやすい形で提示する.
これは専門用語で言えば calibration や audit に近い発想ですが, 要するに
「AIの振る舞いを見張り,必要なら人間側でブレーキや補正をかけられるようにしておく安全装置」
です.
後述するThermo-Creditのような指標群と組み合わせることで,
窓口誘導やマクロ・プルーデンスのダッシュボードを,
より透明で説明しやすいかたちに作り直すことを目指します.
2. Thermo-Credit:信用の配分と余力を整理
日常生活で私たちが使っているお金の多くは,中央銀行が印刷したお札ではなく,
銀行が住宅ローンや事業ローンを出すときに数字として生まれる「銀行預金」です.
どの地域・どの業種・どの用途に,こうしたお金(信用)がどれくらい流れているかによって,
住宅価格や雇用,将来の成長パターンは大きく変わっていきます.
ここで重要なのは,銀行が「みなさんの預金をそのまま貸している」のではないという点です.
融資の契約が結ばれた瞬間に,銀行の帳簿のなかで新しい預金が同時に記録されます.
たとえば,あなたが捺印した手形やローン契約書を銀行が資産として購入し,
その代金としてあなたの口座に預金が記帳される,というイメージです.
マネーの総量は,こうした信用取引の結果としてあとから決まる量であり,
本質的には「信用」そのものが主体であると考えられます.
そのため,単に「マネーの総量」だけを見るのではなく,
「どの分野にどれだけ偏っているか」と「まだどれだけ安全に増やせるか」を,
分かりやすく整理しておく必要があります.
Thermo-Creditは,この「信用の流れと余力」を
地図のように見える化しようとする枠組み(指標のセット)です.
AIは,この Thermo-Credit で定義された指標群を「状態変数」として参照しながら,
異常検知・シナリオ比較・窓口誘導ルールのチューニング案の提案といった役割を担うことを想定している.
つまり,AIはブラックボックスの神託ではなく,
公開された座標系(Thermo-Credit)の上で動く補助エージェントとして設計される.
あわせて,この枠組みには明確な課題もある.
とくに,「エネルギー」として扱う量をどう定義するか,またクレジット構造から取り出しうる自由エネルギーのうち外界に逃れる分を除いたものとして定義される Xc (エクセルギー)の妥当性をどう確保するかは難しい点である.
これらは各国の会計制度やデータの取り方に強く依存し,単純に一意の定義を与えにくいからである.
この調整方法を見出し,異なる国・制度・データ頻度のあいだでも比較可能なスケーリングを与えることが,今後の中心的な研究テーマになる.
もしここに,ある程度普遍的に使えるメソッドを提示できれば,各中央銀行や金融機関が自前のデータを用いて Thermo-Credit 型のダッシュボードを構築・検証し,信用配分やマクロ・プルーデンスの運用ルールを定量的に設計・チューニングするための,実務に耐えうる強力なツールになりうると考えている.